2012年8月29日水曜日

朝日新聞「ニッポン前へ委員会」記事 2012.8.15

朝日新聞 2012年8月15日号の記事より、稲村市長の提言部分を抜粋いたしました。

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「ニッポン前へ委員会」低線量・がれき処理巡り提言


東日本大震災で生じた岩手、宮城両県の震災がれきの広域処理や福島県での除染が抱える問題に関連し、朝日新聞社の「ニッポン前へ委員会」は、低線量の放射能汚染とどう向き合うべきか、2委員による提言をまとめた。稲村和美・兵庫県尼崎市長は、がれき受け入れを検討した際の取り組みを踏まえ、市民対話の重要性を唱えた。(以下省略)

 『対話重ね、ともに学び考えよう』 尼崎市長 稲村 和美 

 

今年4月、国から県経由で震災がれきの広域処理について県下自治体に要請があり、「安全性と住民理解」を前提とする受け入れ可否の検討に入った。尼崎市も阪神大震災時には全国から支援を頂き、また近隣自治体に災害廃棄物を受け入れて頂いた。しかし今回は、京都五山の送り火に被災地の松を使う計画などが放射能を不安視する声で中止となり物議を醸したように、私がどのような決断を下したとしても、住民の間にしこりが残りかねないと認識していた。同時に、原発事故後の政府対応などにより政治や行政への市民の不振が募る中、住民の健康や安全を守り、不安を解消する首長としての責任を強く感じていた。
 そこで、予断を持たず、市長として判断する前に、多くの市民に論点を共有してもらい、徹底して自ら市民と対話し、検討プロセスは随時、全面公開することにした。そのスタートとして対話集会を平日夜と休日昼の2回実施し、インターネット生中継も行った。
 近畿圏でこのような場をもったのは尼崎市が最初だったこともあり、市外からも参加者が詰めかけた。受け入れ賛成の意見もあったが、大勢は反対論が占めた。「放射性廃棄物は拡散させるべきではない」「たとえ微量でも安全とはいえない」「雇用やコストを含む経済合理性の面で現地処理がよいのでは」という不安や疑問も含め多くの意見が出された。その後、意見をもとに論点整理を行って市のサイトに公開し、市民とともに学び考えるプロセスを準備していたが、被災地の新設炉が稼動し始めるなど状況は刻々と変化した。広域処理の必要性と合理性を見極めるため、がれき量再計算の結果や国の今後の処理工程に注目していたところ、先般、可燃物の広域処理は既に受け入れ済みの自治体などに限ることが発表された。
 尼崎市の受け入れ検討プロセスは収束することになるが、引き続き、被災地支援に取り組むとともに、対話集会などの声を踏まえた、意見の異なる専門家や市民を交えた放射能についての勉強会を公開で実施したいと考えている。
 小さな子供を持つ母親をはじめ、市民の放射能汚染への不安と、政府が放射能の危険性を過小評価しているのではないかという不信は依然として根強い。集会では、「政府が安全としていたアスベストで多くの中皮腫患者が出ている尼崎市で、政府の言い分をうのみにして住民を危険にさらさないで欲しい」という意見も出された。また、被災地の除染に取り組む職員の方のお話を伺った際には、除染で剥がした土の一時集積場所の確保が住民の不安で難航し、肝心の除染が進まないと苦悩しておられた。国民は今も放射能に対する不安の中にある。被災地に暮らす人々、避難している方々の苦痛や負担は、今なお重い。
 政治や行政に対する信頼が損なわれ、専門家への信頼も揺らいでいるという現実を真摯に受け止め、一見、遠回りなようでも、透明なプロセスの下、しっかりと市民との対話を積み重ねていくほかない。政府においても、放射性物質の特性について専門家と市民を交えて理解を深める丁寧なプロセスを実施するとともに、放射能汚染と今後どのように向き合っていくのかという道筋を示すべきだ。

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